神戸地方裁判所 平成8年(ワ)713号 判決 1997年3月12日
原告
和田慶太郎
被告
清水洋吉
主文
一 被告は、原告に対し、金三七九万一五八八円及びこれに対する平成六年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一三七二万六七四九円及びこれに対する平成六年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を受けた原告が、被告に対し、民法七〇九条により、損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成六年九月二五日午前五時二〇分頃
(二) 場所 神戸市垂水区狩口台七丁目一五番先道路(以下「本件道路」という。)
(三) 加害者 被告運転の普通乗用自動車(姫路五七て六三五三)
(四) 被害者 原告
(五) 態様 被告が原告を加害車の助手席に同乗させて本件道路を西進中、脇見運転をしたため、進路左側の電柱に衝突した。
2 原告の受傷内容及び治療経過(甲三、乙二ないし四)
原告は、本件事故により外傷性膵断裂、肝被膜下破裂、右多発肋骨骨折、肺挫創、術後出血性胃潰瘍等の傷害を負い、次のとおり入、通院して治療を受け、平成七年三月三〇日、症状固定と診断された。
(一) 平成六年九月二五日から同年一一月一九日までの五六日間、神戸市立中央市民病院(以下「中央市民病院」という。)に入院
(二) 同月二〇日から平成七年一一月九日まで同病院に通院(実通院日数二〇日)
3 責任原因
被告は、本件事故当時、加害車を運転して西進中であり、前方注視義務があるところ、脇見をして同車を電柱に衝突させたものであるから、前方注視義務を怠つた過失がある。
従つて、被告は、原告に対し、民法七〇九条により、後記損害を賠償する責任がある。
二 争点
1 好意同乗による減額
2 原告の損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
証拠(乙九ないし一一、原告本人、弁論の全趣旨)によると、原告と被告は、本件事故前日にプロ野球を観戦し、その後の午後八時頃から本件事故当日の午前二時頃までの間、大阪市内の梅田、十三で二〇名位の友人と飲食を続けたこと、原告は、被告がある程度飲酒をしていることを知つていたが、加害車の助手席に同乗し、他の数名の友人とともに自宅まで送つてもらうことにし、本件事故の一〇分位前からうとうとと居眠りをしていたこと、被告は、本件事故当時、制限速度が五〇キロメートル毎時のところ、時速六〇キロメートルの速度で加害車を運転し、居眠りをしていた原告の方を脇見をし、進路左側の電柱に衝突したこと、原告は、本件事故当時、シートベルトを装着していたが、右衝突の衝撃でシートベルトと背骨の圧迫により肝臓と膵臓が破裂したことが認められる。
右認定によると、原告は、被告がある程度飲酒していることを知りながら、加害車に同乗して自宅まで送つてもらう途中、居眠りをし、被告の脇見運転を招いたものであるから、本件事故発生につき、好意同乗者である原告にも多少の落度があるといわざるをえない。
その他諸般の事情をも考慮のうえ、原告の後記損害につきその二割を減ずるのが相当である。
二 争点2について
1 治療費(主張及び認容額・一六九万〇〇六〇円)
原告が本件事故による治療費として一六九万〇〇六〇円を要したことは当事者間に争いがない。
被告は、支払を協議中である太平住宅健康保険組合からの請求金二六九万〇八八七円も損害としての治療費に加えるべきであると主張するが、支払を協議中でその支払がなされていないから、現時点において右請求金を損害として認めるのは相当でない。
2 付添看護費(主張額・二八万六〇〇〇円) 二二万円
証拠(乙一ないし四、原告本人)によると、中央市民病院は完全看護体制であつたが、原告は、本件事故による負傷が内蔵破裂等の重篤なもので、入院当初から点滴栄養チユーブ、老廃物排出チユーブ等をつけていて身動きできなかつたため、同病院の許可を得て、右チユーブのとれた平成六年一一月七日までの四四日間、母親に付添つてもらつたことが認められる。
右認定によると、原告の母の付添看護は相当であるというべきであるが、近親者の付添看護は一日あたり五〇〇〇円が相当であるから、相当な付添看護費は二二万円となる。
3 入院雑費(主張及び認容額・七万二八〇〇円)
本件事故による原告の入院期間は前記のとおり五六日間であるところ、一日あたりの入院雑費は一三〇〇円が相当であるから、相当な入院雑費は七万二八〇〇円となる。
4 通院交通費(主張及び認容額・三万二〇〇〇円)
証拠(原告本人、弁論の全趣旨)によると、原告が自宅から中央市民病院までの通院交通費として片道八〇〇円を要したことが認められる。
そして、本件事故による実通院日数は前記のとおり二〇日間であるから、相当な通院交通費は三万二〇〇〇円となる。
5 休業損害(主張及び認容額・一〇八万円)
証拠(甲五の一・二、原告本人、弁論の全趣旨)によると、原告は、平成六年二月頃から本件事故当時まで深夜に菓子製造会社のアルバイトをしており、同年一〇月から平成七年三月までの採用が内定していたが、本件事故により、結局、採用されなかつたこと、平成六年二月から同年九月までの間の平均日収は約九〇〇〇円であり、同期間の平均労働日数は一か月あたり約二〇日であつたことが認められる。
右認定によると、原告は、本件事故がなければ、平成六年一〇月から平成七年三月までの六か月間、従前のアルバイト収入をあげえたものと推認することができる。
したがつて、原告の休業損害は、次のとおり一〇八万円となる。
9,000×20×6=1,080,000
6 逸失利益(主張額・一〇〇一万八四二三円) 一〇三万二二〇一円
(一) 証拠(甲二、三、検甲一、乙一ないし五、原告本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。
(1) 原告は、本件事故により、膵臓と肝臓が破裂し、そのための手術を受け、その後、腸閉塞の疑いがあるということでそのための再手術も受けた。右二回にわたる開腹手術のため、腹部に長くて大きい醜状痕が残存した。
(2) 原告は、症状固定当時、立ちくらみがあり、疲れやすい、下痢しやすい、喉が乾く、尿が多い等の自覚症状があり、他覚症状としては腹部の手術痕であつた。右症状は、自賠責保険において、非該当であると認定された。
(3) 原告は、日常生活上の基本的な動作の制約はないが、右自覚症状は現在も継続している。
原告は、平成八年三月、大学を卒業したが、体力的な自信がないために就職をしないで、体が疲れない程度にアルバイトをしている。
(二) 原告は、自賠法施行令別表の後遺障害等級一一級一一号に該当すると主張するが、右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
右認定によると、原告は、本件事故により、自賠法上の後遺障害を受けたと認めることはできないが、原告の本件事故による傷害は重大であり、現在、日常生活上の基本的な動作の制約はないものの、その自覚症状が相当大きいことにその他諸般の事情を考慮すると、原告は、本件事故により四パーセント程度の労働能力を一〇年間程度喪失するとみるのが相当である。
平成六年産業計・企業規模計賃金センサスによると、原告と同年齢の男性労働者大卒二〇歳ないし二四歳の年間給与は三二四万八〇〇〇円であるから、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除し、原告の本件事故当時における逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり一〇三万二二〇一円(円未満切捨、以下同)となる。
3,248,000×0.04×7.9449=1,032,201
7 慰謝料(主張額・五五〇万円) 二三〇万円
本件事故の態様、原告の傷害の内容、程度、入通院期間、現在でも残る原告の自覚症状、腹部手術痕その他本件に現れた一切の諸事情を考慮すると、本件事故により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するには、二三〇万円をもつて相当とする。
8 小計
右1ないし7の合計は六四二万七〇六一円である。
9 好意同乗による減額
原告の右損害賠償請求権につき、前記の好意同乗による二〇パーセントを減ずると、その後に原告が請求できる損害金額は五一四万一六四八円となる。
10 損害の填補
本件事故による原告の損害に対して合計一六九万〇〇六〇円が填補されたことは、当事者間に争いがない。
従つて、その控除後に原告が請求できる金額は三四五万一五八八円となる。
11 弁護士費用(主張額・一〇〇万円) 三四万円
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては三四万円とみるのが相当である。
第四結論
以上のとおり、原告の請求は、被告に対し、主文第一項の限度で理由があるからその範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとする。
(裁判官 横田勝年)